パワーハラスメントに関する法律実務
今回、ようやく長年の懸案であったパワハラに関する著作を書くことができた。たまたま、パワハラの規制法である労働施策総合推進法(旧雇用対策法)の改正が、令和元年5月29日に可決成立し、6月5日に公布された。その施行はおそらく令和2年4月1日である。
社会的にパワハラの存在が認知されたのは平成15、16年頃と思われるが、法制化まではそれから実に15年ほど経過したことになる。その間、社会的には多くのパワハラに関する報道がなされ、その法的対応の重大性が叫ばれてきた。にもかかわらず、裁判例も積み重ならず、また、行政の対応も遅遅として進まず、問題を抱えることになる企業としても、どのように対応すべきか羅針盤の定まらないままの状態が継続してきた。それが、まだまだ初歩であるとはいえ、法制化されたことにより、その課題の一部は解消されることになると思われ、その意義は極めて大きいといえる。
私としても、パワハラ問題は、この10年間、法律相談が極めて多い分野でありながら、結局は、事例毎の判断、事例毎の対応策を模索してきたにすぎず、統一的な判断、抜本的な対応策はとることはできなかったと感じているところである。
今後は、法律が制定され、更には指針が発表されることになるので、統一的な判断が可能になり、抜本的な対応が可能になってくるであろうと期待している。また、自分の意見をまとめた本書が出されたことにりパワハラ問題に関して、一応のけじめにはなるであろうか。その意味では感慨深いものがある。しかし、法整備が始まったからといってパワハラ問題は解決するには程遠い状況であり、むしろはじまりのような気がしている。
何故パワハラがおこるのかという課題については、未だに回答は出されていないし、皆目見当がつかない状況にあるのは気にかかる。つまり、原因の解明ができなければ、企業社会に於いて蔓延しているパワハラの抜本的な解決には結びつかないと思われるからである。人間社会においては、セクハラもパワハラも人間の本能に基づく行動であるかもしれず、おそらくは容易にはなくならないであろう。一定の規制を加えてそれらのハラスメントを押さえることはある程度は可能であるが、撲滅することはむずかしいのではないであろうか。その意味では、特にパワハラ対策は果てしなき戦いになるかもしれず、企業にとっては強い気構えが必要である。
本書はこれまで出されてきたパワハラ関連の判決を詳細に分析して紹介しているので、是非活用してほしい。
執筆にあたり、各判例の概要はもちろんのこと、難解な判例を理解しやすくするために、私個人の着眼点(外井弁護士の視点)や、判断を左右する要素になったと思われる事柄、キーワードを、類型の分析とともに紹介してみた。パワハラ問題への対応に苦慮している方々の参考になれば幸いである。
書籍情報
- 発行年月日
- 2019/9/24
- 執筆者
- 外井浩志
- 出版社
- 税務研究会出版局