企業不祥事と公益通報者保護法について
今回、新しく公益通報者保護法の解説を書くことになったが、その契機は、ある公益団体から公益通報者保護法関係の研修会の講師の依頼を受け、約9年ぶりに保護法を勉強したからである。この法律は平成18年4月に施行されたが、その後約9年間、見直しはなく、ガイドラインなども殆ど変わっていない。しかし、その間の企業や各団体の不祥事は凄まじいものがあり、おそらくはその端緒の多くは内部通報(内部通報は必ずしも公益通報ではない)にあるとおもわれることを考えると、もう少し内部通報そのものに対する認識が変わってもよいのではないかと思うが、今のところ法改正の具体的な動きは表面化していない。
私個人は、内部通報は、できればその企業内で全て解決され、行政官庁やマスコミ等の第三者には出ないようにできないか(そのためには各企業もその内部通報に対して適切かつ迅速に対応できるようにすべきである)と考えているところである。
とはいえ、一方で、最近、各企業において公益通報窓口、セクハラ・パワハラホットライン等の窓口を設けることも多くなったが、これも真にその通報者のために実施しているのか、甚だ疑わしい事例もあり、到底、有効に機能しているとは思えない。そのため、内部通報のあり方については、基本的なところから組み立て直して行く必要があるように思っているが、未だに考えがまとまっていない。
そのような状況下で、本著は、高度の議論ではなく、企業・団体の不祥事の事例の紹介と保護法の簡略な解説に留めており、それより新しく高度な議論には踏み込んでいない。その意味では、本書は資料集のような意味合いが強いかもしれない。なお、公益通報制度の問題点については、私なりの思いをザ・ローヤーズ2015年2月号(アイ・エル・エス出版)に掲載させていただいているが、未だに建設的な意見にはまとまっていない(駄文で恐縮であるが、興味のある方はお読みいただければ幸いである)。法制度が変わったり、私なりの意見がまとまったら、本テーマを資料集としてではなく、理論的な実務書として書き直したいと思っている。
書誌情報
発行年月日 | 2015/3/23 |
著者 | 外井浩志 |
出版社 | とりい書房 |