人事異動 配転・転勤・出向・転籍・派遣・昇進・昇格
本書は、配転・転勤・出向・転籍・派遣・昇進・昇格に関する法律問題の解説書である。新・労働法実務Q&Aシリーズの一冊であり、二冊目の刊行となった。
人事異動の分野については、派遣の分野を除いて、法律条文がなく、判断基準はほとんどが判例であるという大きな特徴がある。したがって、この分野を理解するためには、判例の修得が必要不可欠となるが、各判決内容を理解するのは決して容易ではなく、これまでの解説書ではわかりにくい点が多かったものと思われる。
そのうえ、そうした解説書も、人事異動のみを取り上げているものは数少なく、かつ、難解なものが多かったと思われる。その理由は、やはり実定法のないことによるところが大きいであろう。人事異動が企業の活動に伴って飛躍的に増大し、かつ多様化している時代に、その判断基準となるべき実定法がないのでは企業としても対応しづらいことは論を俟たない。企業が公正かつ適正な人事異動を行うことができるよう、何とか明確な判断基準をつくりたいと前々から考えてきた。
そういう観点から本書を書き始めたわけだが、残念ながら力及ばなかったかもしれない。しかし、できるだけ裁判例にあたり、できる限り多くを紹介することとしたことは自負できる。本書を利用していただく場合は、各項目の結論のみを一般化・抽象化せず、特に具体的状況下における個別の判断であることに注意していただきたい。そして、結論を覚えるだけではなく、その理由づけこそが重要であることを理解していただきたい。
我々、弁護士もそうであるが、特に企業や労働組合の担当者は、自己にとって結論の有利な裁判例のみを尊重し、自己にとって結論の不利な裁判例については内容を検討しない傾向がある。しかし、たとえ結論は逆であっても、その理由づけ、論理展開については非常に参考になり役に立つこともある。そういう意味では、裁判例を勉強するということは、そのものずばりの裁判例を探すというよりも、その周辺部分について丹念に調べることが重要と考える。本書を利用することによって、少しでも裁判例に親しむことが可能であれば幸いである。
次に、派遣についてであるが、労働者派遣法が制定されて既に10年以上が経過、労働者派遣事業は、この時代の花形産業となる様相をみせている。各企業では、その組織のスリム化のためにスタッフ部門を派遣社員で補うという方針が撮られている傾向が強く、しかも、規制緩和の動きの中で派遣業務の拡大が提唱されている。しかしながら、労働者派遣の分野については、人事・労働面でのトラブルは裁判例としては表面化しておらず、まだまだ論理的には未解決な部分が多い。本書では、労働者派遣の全分野を網羅してはいないが、論理的に問題となりそうな点について論述した。参考になれば幸いである。
書誌情報
発行年月日 | 1997/11/28 |
著者 | 外井浩志 |
出版社 | 生産性出版 |