新・労働法実務Q&A 採用・退職・解雇・定年・懲戒

 本書は、採用・退職・解雇・定年・懲戒処分に関する法律問題の解説書であるが、新・労働法実務シリーズ(7冊刊行の予定)の1冊である。現在の労働関係で最も注目されているのは、企業の人事制度の改定等に伴うリストラであり、まさに本書のテーマである「退職・解雇・定年」がそれに該当する。そのためこのシリーズ7冊のうちで最初に刊行することになった。
 最近の労働法関係は、労働時間制度の変更、育児介護休業の法制化、男女雇用機会均等法の改正、60歳定年制の義務化、労働者派遣法の改正、有料職業紹介事業の原則自由化など様々な動きを見せている。新・労働法実務シリーズを執筆するにあたっては、シリーズのいくつかを分担する小代順治弁護士と共に自己研鑽し、最新の情報を加味したアップデートなものとしていきたいと考えている。

  本書の特徴としては、わかりやすくするということでQアンドA方式を採用したが、あまりにノウハウ的な内容とはせずに、裁判例の紹介を中心とする実務書にすることとした。労働法に限らず、最近の法律関係書の傾向としては、学者の書く本格的な解説書と、弁護士を中心とする法律実務家のQアンドA方式のノウハウ本の二極化が進んでいることが挙げられる。学者の書く体系書は網羅的ではあるが内容が難解であり、実務的にはすぐには使用し得ない憾みがあり、他方QアンドA方式のノウハウ本は結論がわかりやすく実務的には利用しやすいが、往々にして結論のみが一人歩きするため読者に応用力が身につかないとい憾みがある。その点、本書はその中間をねらった著書ということができよう。
 特に裁判例をできるだけ多く紹介することにより、読者に、どのような紛争が起きるのか、起きた場合にどのように判断されるのかを理解してもらおうと考えている。 法律問題のうちても特に労働問題は、法律条文よりも裁判例の方が先行し、労働関係紛争の解決の基準については、法律よりも判例が形成することが多い。その意味では、裁判例を多く知ることが重要であるが、労働問題、特に解雇事件の場合には、それぞれの事件での固有の事情が大きな影響力を持つことが多く、単に裁判例を覚えるだけでは十分とはいえず、応用力を身につけることが肝要となる。それゆえに、中途半端な知識は逆にマイナスになることもある。 会社の人事担当者や労働組合の役員などが、これらの難解な労働問題を解決するためには、最低限の法律知識をマスターするとともに、その判例を含めた法律知識を前提とした実務的な応用力を身につけることが必要であり、日頃からの研鑽が必要であることは論をまたない。
  本書が、これらの要請についての解決を十分に見出せる書であるとの自信はないが、少なくともそのように心掛けて執筆したつもりである。本書を読むにあたってはそのような観点から読まれることを希望する。

書誌情報

発行年月日1999/5/6
著者外井浩志
出版社生産性出版