労働契約法と就業規則
長かった平成不況を抜け、ようやく景気の回復傾向はみられたと思ったら、すぐに石油価格の高騰とサブプライムローン問題で景気の先行きに暗雲が立ちこめてきました。さらには、ここ数年企業や官庁の不祥事は枚挙にいとまがありませんし、国民生活の根幹である年金問題は未だに解決の糸口がまったくみえず、社会保険庁への信頼はまさに地に墜ちたといってよいでしょう。2007年は偽装の年で、種々の産業の偽装問題が噴出し、官庁や企業への信頼は大きく損なわれました。これらの社会情勢は企業の労働問題に大きな影響を及ぼすことが予想されます。官庁にせよ、大企業にせよそれらの組織はエリート集団であり、彼らが悪いことをするわけがない、彼らにまかせておけば大丈夫だという認識が日本社会には存在していたはずです。ところが、バブル崩壊後、見事にその信頼感は消え、自分たちのことは自分たちで考え、自分たちで守らなければならないという危機意識が育ってきたのではないかと思います。
そのような中で、企業としてはより国民、住民、社員の信頼を勝ち得るための物的面、精神面の整備をしなくてはなりませんし、社会的信用を維持するためには、種々の面の正義、コンプライアンスを実現していかなければなりません。他方、労働者はこれまで寄りかかってきた企業に対して常に批判の目でながめなければならないようになり、自らの生活を守ろうとする防衛意識は強度のものとなり、賃金・退職金はもとより、生命・身体の安全、健康の管理についても企業に対してその保障を求めることになるでしょう。
そのためには、役員も含めた社内の規律、規則が非常に重視されるようになってきましたし、おそらく今後は一層そのようになるでしょう。
もともと、日本の企業社会は、欧米諸国に比べてウエットな部分が多く、未だにドライであるべき契約社会の実態には遠いといわれてきましたが、今まで、曖昧に済まされてきたウエットな部分も、次々と問題とならざるを得なくなってくるでしょう。要は今まで、労働慣行とか労使の阿吽の呼吸といわれる甘えの部分が次第に表面化して見直され、廃止されたり、残っても規則化される傾向にあるといえます。
本書は、職場の憲法といわれている就業規則について目を向け、就業規則の役割とその規定内容の意義、その作成の仕方について言及してみました。前述のウエットな部分を明確にする方法としては、労働契約書の作成・労働協約の締結などの方法もありますが、広く職場の秩序を定め、労働条件を保障するものとしては、何といっても就業規則ということになるでしょう。就業規則のもつ重要性を再確認する必要性があると思います。
しかしながら、企業内の労働者で、就業規則になれ親しんでいる者は、残念ながら一握りの数しかいないのではないでしょうか。労働者側の怠慢もその原因ですが、無味乾燥な文章で難解な内容しか規定してこなかった企業側の姿勢にも問題があったことも事実です。今後は労使ともに、就業規則に親しみ、普段から活用しやすい内容にしていくことの工夫が必要です。本書は若干ではありますが、その点に言及しています。本書が労使双方にとって利用されることを希望してやみません。
書誌情報
発行年月日 | 2008/4/30 |
著者 | 外井浩志 |
出版社 | 労働調査会 |