不況時の労務管理Q&A

 今回、不況時の労務トラブルにおける手引きとして本書を執筆することになりました。平成20年夏のリーマンショック、世界同時不況の波を受け日本企業の多くは赤字経営あるいは大幅な減益となり、労働界も大きな影響を受けました。まず、賃上げの停止や賞与の減額はもちろんのこと、主として製造業での請負や派遣の解約、パート、臨時社員等の非正規社員の雇止め・解雇、採用内定の取消、その後の多くの企業による一時帰休の実施、希望退職の募集、退職勧奨などが頻繁に行われています。
 年越し派遣村などの衝撃的な活動は記憶に鮮明であり、行き所のない労働者の不満は募るばかりのようです。しかも、今回の不況は日本経済が依存していたアメリカ、中国なども巻き込んだ世界的不況であるため容易には脱出できそうもありませんし、わが国の教育面、医療面、介護福祉面などの国家の無策に対する国民の不満をも反映して、経済面ばかりでなく精神面でも労働者はもちろん、企業にとっても不安、不透明、不確実な時代に突入してといえます。このような状態の中で、労働問題も大きく変わらなければなりませんし、変容を必要とされていて、これから、労働者と企業の関係も大きく変わることになります。

 ここ20年余り、年功昇進、年功序列賃金の後退と成果主義、転職等の活発化が進められてきましたが、それは一層進められることになるでしょう。企業丸抱え雇用関係は崩壊し、大人の労使関係にならざるを得ないでしょう。その結果、労働者も特定の企業への甘えは禁物ですし、企業も特定の労働者へ依存すれば裏切られることになるでしょう。つまり、ますます、これまでのウェットな関係からドライな関係へと転換の傾向は強くなります。その意味で、労働者と企業の労働問題はすぐに法的責任の問題へと発展しやすくなってくるといえ、共に労働法の正確な知識が必要になってくると予想されます。

 本著は、現在の経済状況を踏まえて、問題となりそうな労働問題について、Q&A方式により最低限の知識を理解していただくつもりで書いたものです。おそらく増加してくる労働問題については、迅速な対応が必要で、労働者、企業ともに本書を活用していただければ幸甚です。

書誌情報

発行年月日2009/6/30
著者外井浩志
出版社中央経済社