事典 働く者の健康・安全・衛生と補償 第2版
深刻な平成不況と企業のリストラの推進、増加する失業率、ゼロ回答ならぬ賃下げ傾向、労働事情は極めて深刻で、仕事さえあれば運のよい方だ、どんな仕事でもないよりはましだ、という風潮が出てきている最近です。 他方、いわゆる過労死問題、エイズ問題など、今日くらい、労働者の健康問題がクローズアップされてきた時期はありません。
昭和60年代に入ってからの時短問題も平成不況のために、ぐっと時間短縮が進んだにもかかわらず、働きすぎによる過労死問題がクローズアップされているというのは、皮肉以外の何物でもありません。バブル時代のつけが数年遅れて回ってきたということでしょうか。いずれにせよ、不況の時代だからこそ労働者にとって健康が重要であり、何物にも代え難い財産であるということを身にしみて感じている方々が多いのではないでしょうか。
本書は、以上のような傾向を踏まえて、労働者の安全・衛生・健康問題・補償問題等を広く取り扱ってみました。この分野は、非常に技術的・専門的で、コンパクトな解説書がなく、専門的すぎてとっつきにくい分野と理解されてきました。例えば、この分野の基本法として労働安全衛生法という法律がありますが、この法律自体は主要な内容を政省令に委任しており、法律条文を読んでも内容が空虚すぎて全くと言ってよいほど理解できませんし、何冊か出版されている解説書は分量も多く、かつ、網羅的な解説をしているため、一読して全体像をつかむのには不向きといえます。その他、保障の分野では基本法として労災保険法がありますが、この法律も技術的であり理解しづらい点は否定できません。
今回、本書の執筆を引き受けるにあたっては、第1に、安全・衛生・健康から補償、損害賠償にわたる広い範囲の内容にすること、第2に、時代的背景にフィットする新しい傾向を取り込んだものにすること、第3に、できるだけわかりやすくすること、を念頭におきました。 このうち、第1、第2については目的を達成したものと自負していますが、第3については必ずしも十分ではなかったかも知れません。しかし、この分野自体がかなり技術的・専門的であり、あまりにわかりやすくするということは不正確になるという側面を有しており、その意味ではやむを得なかったものと弁解し、今後は、さらに研鑽してより良い内容にしていきたいと考えています。
書誌情報
発行年月日 | 1998/03/01 |
著者 | 外井浩志 |
出版社 | 中央経済社 |