取締役・総務部長のための会社法律事務228問228答

 この数年、社会のいろいろな分野で顕著な変化が起こっている。永年の諸制度のひずみが一気にふき出した感があり、平成不況も10年を経過しても、なかなか先行きが見えない状況である。企業の経営も、大きなミスなくとも倒産になるかもしれないような不透明な時代である。経営の依るべき理念がこれほどまでに不確定な時代もないであろう。企業家にとってはまさに受難の時代である。
 他方、各種制度のひずみが生じ、そのひずみを解決するために新しい法制度が構築されたり、また既存の制度の変更のために法改正がなされた分野も多い。時代の変革に伴い、法制度を変更するのは当然のことではあるが、20世紀末から21世紀にかけて、その数の多さ、内容の豊富さには驚かされる。企業も、それぞれの分野の法制度に違反するようなことのないよう遵法意識を高めるべきであり、さらに一歩進んで、社会の模範となるべき企業として倫理を持ち、社会的責任を全うしていくべきである。
 最近、様々な違法行為を行っている企業が摘発され、刑事責任、民事責任を問われるとともに、厳しい社会的責任を追及されることが多いが、企業が遵法意識を持つということは極めて重要なことであり、経営者としてもそのことを銘記すべきであろう。しかも、従来の適法、違法という判断基準と現在における適法・違法という判断基準とは必ずしも同じではない。企業として社会の動向を敏感に察知して法や倫理の尺度を鋭敏に把握しなくてはならないのである。

 本来、法制度が変更されれば、在野法曹しての弁護士の活動する分野は広がってくる。大企業であれば、たくさんの弁護士と相談しアドバイスを受け、各種法制度を理解して適切な方法を選択することもできようが、中小企業はそのようなわけにはいかない。顧問弁護士がいたとしても、せいぜい1人であり、このように専門化、分化した法制度のすべてをアドバイスすることはできない。その意味では、中小企業の経営者は、自分たちで違法なことを行うことがないように自分たちの手で企業を防衛していく必要があるが、これは大変難しいことであり、絶えざる努力が必要となる。

 本書は、筆者がこれまでの弁護士としての経験を踏まえて、中小企業の経営者を対象として、基礎的な法的紛争の予防、解決を目的としたものである。内容は、民事、商事などの10の分野に区分しており、その分野については基礎的な事項は概ね述べたつもりである。したがって、その分野の法的紛争の予防や解決の方向は理解できるはずである。もちろん、1人の弁護士の書いたものであり、その法的紛争のすべてをカバーするなどは無理なことであるし、各分野の専門書でもないので各分野における微細にわたる紛争の解決には向いていない面もあろうが、大きな方向づけにはなるものと確信する。今後は筆者もより知識を習得し、より広範な法的紛争につき実践的なアドバイスのできるよう努めなくてはならないと考えている。本書がそのように利用されることを希望する。

書誌情報

発行年月日2001/5/11
著者外井浩志