実務解説 労働基準法

 今回、労働基準法の改正を契機にして労働新聞社の御厚意で本書を執筆することができた。言うまでもなく、労働基準法は、労働組合法と共に数ある労働法の中の中核となる法律であり、その法律の解説書を執筆するというのは誠に光栄なことである。

 昨今、リストラの時代を反映してか労働法関係の著作は非常に多いが、その多くはノウハウものや個別テーマに関する著作であり、一つの法律について解説した基本書は少ない。どうしても、その時代時代に問題となっているテーマはニーズが多いし、書く側に立っても具体的な問題は把握が容易であるために書きやすいということもあるが、基本書は、その時代時代でよく使われる部分もあれば、全く使用されない部分も多いので、ニーズも少ないし、書く側からいっても書きづらいという面もある。しかしながら、労働問題はズバリとした回答があるものも無いわけではないが、多くは、ズバリとした回答はなく、最終的には基本に立ち返ってどのようにすべきであるかを考えることがしばしばである。要は、最終的には基本に立ち返って、状況を分析して冷静に判断することが重要なのである。つまり、実際の労働問題は、言わば応用問題であり、その応用問題は数学のように必ずしも正解があるわけでもなく、いろんな可能性を考慮しつつ、どれがベターか、あるいは、どれが致命傷とならないかを選択することが多いのである。その判断の基礎になるのは労働法の基礎であり、労働関係法の条文であり、その基本書である。

 今回、この基本解説書を執筆するに当たっては、これまでの本の執筆以上に苦労した。というのは、具体的な事例解説は取り組みやすいが、そのような事例の少ない抽象的な解説はなかなか難しいからである。労働基準法もそうであるが、訴訟において殆ど用いられない条文も多いのであり、その解説は、当たり前のことを如何に自分の表現で解説するかといことであってなかなか困難なことである。本来は、このような基本解説書は学者が書くべきものであり、私のような実務家が書くのはふさわしくないのかもしれないが、御容赦願いたい。なお、基本解説書である以上、あまり自分独自の考えを出さないようにはしたつもりであるが、休業手当と危険負担の問題、事業場外労働の問題等数箇所については自説を展開させてもらったが、読者の批判を仰ぎたいところである。

書誌情報

発行年月日2004/12
著者外井浩志
出版社労働新聞社