社員教育をめぐる法律問題Q&A

 今回、社員教育に関して労働問題の観点から執筆を依頼されることになり、長年の懸案事項についてのまとめができるということで、一種の安ど感を得ることができた。というのは、このテーマは、ここ数年、私が講師をしている労働調査会等数社の主催する公開セミナーのテーマとなっており、興味深いテーマと考えていたからである。勿論、社員教育と労働問題というテーマは私が考え出したテーマではなく、元労務情報研究所所長の古澤三四二氏の発案したテーマであり、私が講師を務める20数年前から、他の講師によるセミナーも行われているという伝統があるテーマといってよいが、如何せん、それをまとめた著作はないというのが現実であった。その意味で、このテーマで本書を執筆できたことは光栄に感じる。

 ところで、最近の労働力の流動化の観点からみると、社員に多くの資金をつぎ込んで社員教育をしても、他の会社に転職したり、自分で独立して同業の開業をしたりして、そのつぎ込んだ教育への努力が実を結ばないという事態も生じている。他方で、企業間の競争の中でその企業が生きのこるためにはその社員の質的な向上は不可欠である。その意味で、会社が社員の教育にどれだけのじかんをつぎ込むかはまさに経営的な判断である。さらに、社員教育といっても、OJTや講義式の伝統的な教育から、社外講習会の受講、通信教育、eラーニングによる教育、海外研修、海外留学などその方式も多様化し、社員が自主的に、積極的に勉強したいという意欲を尊重する教育に重点が移りつつあり、そうなると、社員教育とは言っても会社の管理下で会社が決めて行う業務という性格のものばかりではなくなっている。そうなると、教育は受動的に受けるものというよりは、社員が積極的に自己啓発していくという傾向が強まっていると言える。

 本書は、このような多面的な傾向の強まっている社員教育をめぐる労働問題について種々の観点から検討しており、必ずや社員教育を積極的に行っていこうという企業にはお役に立つ面が多いのではないかと考えている。その意味で、本書が活用されることを願っている。

書誌情報

発行年月日2005/07
著者外井浩志
出版社労働調査会