改訂版 労働者派遣の実務Q&A
今回、派遣法改正に伴って改訂版を出すことができた。平成24年の派遣法改正については本著第1章で詳しく紹介したが、元々の改正法案は、民主党政権下で、労働者派遣で出てきたひずみを解消するために、労働者派遣事業に制限を加えようというものであった。その内容は、日雇派遣、製造業派遣、登録型派遣の原則禁止を目標にしたものであったが、紆余曲折して、日雇派遣の原則禁止に収まり、製造業派遣、登録型派遣の原則禁止は見送られた。その意味では、この改正により派遣業界のダメージは小さいものとなったが、派遣労働者の継続雇用、派遣労働者の労働条件の保障、均等待遇といった観点の法律条文が設けられ、派遣労働者の雇用の安定と労働条件の確保が重要課題として定められた。
派遣労働といえば、かつては一時的、臨時的なものであり、常用雇用の労働者に取って代わらないようにという配慮がなされていたが、今は、派遣労働者についても継続して雇用するように努めなければならないものと解されるようになった。結局、リーマンショック以降、派遣労働者が職を失い、悲惨な生活を強いられたという理由からであろう。
とにかく、労働者派遣法は、従前から、その時点時点の経済情勢や政権の思想により大きな影響を受けている。労働者派遣の本質からすれば、まさに登録型こそが派遣の本質を最もよく現しているのではないかと思われるが、改正法案ではその登録型を原則禁止しようとしていたのであり、その考え方には賛同できない。確かに、派遣法ができた当時は専門的業務について、正規の就職をするよりも少なくとも給与面での待遇は良く、一つの企業にとらわれずに専門性を生かして好きな会社で好きな業務を行うといういわば理想的な職業と理解されていた。
ところが、次第に労働者派遣事業が拡大され、専門性があるとは言えない業務についても対象事業となってから、必ずしも理想の職業ではなくなったという面がある。そして、専門性があるとは言えない派遣労働者にとって、登録型は、派遣契約が打ち切られれば即労働契約も打ち切られるということにつながるので、それでは派遣労働者の保護として十分ではないということであろう。しかし、何故に、派遣の業種を拡大して規制緩和を行ったのかを考えてみなければならない。派遣という便利な雇用形態は、どの業務でも必要だからである。少なくとも正業で、労働者派遣をすることが不都合であるという業務はないと思う。後は、労働条件、雇用の安定の問題であろう。それが悲惨な労働条件であり、不安定であるということであれば一定の規制は必要かもしれないが、それは登録型を禁止するというような無謀な手法でなくとも十分にできるはずである。
話を元に戻せば、今回の派遣法改正は、大改正とは言えないが、3年後の施行となった「派遣先による労働契約申込みなし」という雇用の本質的で入内な内容を含んでおり、大半は、派遣事業者に対する規制の強化、派遣先に対する規制の強化の方向の改正といえる。そのような方向が果たして妥当なのであろうかという疑問を持っている。つまり、労働者派遣事業を行うのであれば一定の規制は甘受せよ、派遣先も派遣労働者を活用する以上は一定のリスクは覚悟せよということであり、結局、労働者派遣を利用しづらくなる方向ばかりの改正であって、なかなかこれでは元気は出ないであろう。
労働者派遣事業は、この平成不況の中で、これまでどれだけ失業率の減少に寄与してきたのかを十分検討するべきである。それも検討せずに規制強化の方向ばかりに進めば、結局、労働者派遣の活用の減少を招くことになり、益々、不況色が強まるように思える。話してこれでよいのであろうか。
以上が派遣法改正に関する個人的な意見であるが、そのような個人的な意見にかかわらず、本書は法的な観点からの解説を行った著書である。初版から4年半経過しており、その間の法改正や新しい裁判例も盛り込み、だいぶ分量も増加したが、基本的な問題から応用的な問題までQ&A方式で記述している。読者諸兄に活用されることを期待する。
書誌情報
発行年月日 | 2012/11/5 |
著者 | 外井浩志 |
出版社 | 三協法規出版 |