労働時間・休日・休暇の実務Q&A120
今回、労働時間を中心とする本書を出版することができ、望外の喜びである。労働基準法の中で労働時間・休暇の部分を占めるウエイトは相当に重く、それゆえに、Q&A方式であっても、労働時間・休暇についての内容を網羅した本を出すことができたことは労働問題に携わる者にとってまことに光栄だからである。
日本の労働時間法制は昭和62年の労基法改正(昭和63年4月1日施行)により時短の推進を行い大きく変貌した。その特徴は労働時間の弾力的な運用であった。当時の日本政府の構想では、時短を推進することにより、労働者がリゾートを楽しみ、ワーク・ライフ・バランスが実現され、ゆとりと潤いのある職業生活、家庭生活を営むようになるはずであった。しかし、その後の時短の過程は日本の経済不況の過程と重なり、当初の構想とは異なり大変厳しいものとなった。
昭和62年の改正労基法の施行後、予想に反して長期の経済不況に陥り、雇用の確保が最大の課題となった。余裕のある生活どころか、仕事を確保することこそ重要であるとされ、労働時間の短縮はそれほど重要な課題ではなくなった。とはいっても、昭和62年当時から比べると、年間で250時間程度労働時間が減少したことになって時短はかなり進んだと言える。しかし、多くの労働者は仕事が楽になったとは考えていないであろう。なぜなら、仕事が労働時間とは別の基準により計られているからである。転職に伴う競争化社会への変貌、成果主義の採用、IT化の伸展もともなって、労働は量(労働時間)よりも質(成果)で評価されるように大きく変貌したのである。
企業は、労働者が働いたことに対して給料で報いたいのではなく、労働者の挙げた成果に対して給料を支払って報いたいのである。ところが、労働基準法は、制定されてから60年経過しても、賃金は成果に対して支払うという構造ではなく、実際に働いた労働時間に対して支払うという仕組みのままである。そこに労働基準法が企業の実態に合っていないという憾みがある。そのなかで、サービス残業や管理監督者の範囲の問題が最近多く出てきたが、これらは使用者の怠慢という理由で簡単に位置づけられるべきものではなく、労働基準法の労働時間法制が実態に合致していないから生じる問題であり、簡単に取り締まればよいという問題ではなくなっている。
本書は、現行法制の古さと改正の必要性を切実に感じながら執筆していることをご理解いただきたい。決して現行制度を評価して執筆しているわけではく、できることならば企業活動の実態に合ったものに法改正するべきであるという期待を込めて執筆しているのである。現状に合った労働時間法制とはどのようなものなのかという点に関心を寄せていただきながら、本書を活用して、実態に役立てていただければ幸いである。
書誌情報
発行年月日 | 2009/2/20 |
著者 | 外井浩志 |
出版社 | 三協法規出版 |