退職・解雇・定年の諸問題Q&A

 今回、退職、解雇、定年等に関して本書を出版することができ、喜ばしい限りである。この分野は、労働問題の中でも、もっとも紛争になりやすい分野であり、その対応の仕方によっては経営にも深刻な影響を与えるために正確な対応が求められる。
 平成21年秋のリーマンショック以来、不況にあえぐ企業の中には、人員削減に乗り出しているものもあるが、今回の不況については、企業の対応は従前のものとはかなり異なったものになっている。なぜなら、平成不況の当時に、既に多くの企業は正社員中心主義から、非正規社員活用主義に変更しており、社員の多様化により、いきなり正社員の人員削減措置を講じなくても対応できる状況になっている面もある。さらに、アウトソーシングも進行し、請負、業務委託、労働者派遣も相当に増加しており、問題は残るにせよ、契約解除は解雇ではないとうことから、比較的負担の少ない方法で人員の削減ができる。
 「派遣切り」といわれる現象であるが、派遣期間の途中で派遣契約を解除するのは好ましくないものの、派遣契約期間満了後の派遣契約の更新拒否は法的には何の問題もない。そのほか、ワークシェアリングという方法が政府、労働組合、経営者団体の合意により不況の対応方法として公認されており、みんなで痛みを分かち合うやり方で、人員削減よりも雇用の確保による労働者時間の減少、賃金の切下げなど労働条件の切下げも考えらえる方法となっているが、残念ながら、あまり採用されていないようである。

 現在、相当な不況でありながら、正社員に対する整理解雇までに至っている企業は決して多くはなく、バラエティな方法で対応しているというのが現実であり、そのためか、相当深刻な不況でありながら整理解雇に至る場合はそれほど多くはない。以上は、企業の立場に立った対応であるが、労働者側にもかなり変化が見受けられるようになった。まず、転職自体に対する嫌悪感は少なくなり、よりよい条件を求めて頻繁に転職する者が増えている。その場合には、相応の退職金、割増金を支払えば以外にスムーズに解決することも多い。他方、管理監督者問題などで頻発したように管理職の忠誠心が急激に萎えているといえる。管理職であるから会社側の人間とは単純にいえない状況となっている。中には退職割増金の出る希望退職者募集をする場合に、希望者に対して適用を拒絶した人事部長が、自らその割増金ほしさに希望退職に応じるような事態も生じており、管理職のモラルの低下が著しい傾向がある。
 社員の忠誠心の低下、管理職のモラルの低下は、企業にとっても大きなマイナスであり、転職に際して元の会社の営業秘密を取得したり、開示するような行為も頻発化している。まさに弱肉強食の競争時代になってきたといえる。

 本書は、このような変革の時代における様々な退職・解雇・定年に絡む問題に対して、広く回答を試みたものであり是非一読いただき、実務において参考にしていただきたい。

書誌情報

発行年月日2010/1/20
著者外井浩志
出版社三協法規出版