外井弁護士の「労働法」指南書

 今回、労働問題一般についての概説書ということで、本書を出版することができ、感謝している。現在、労働問題も、サービス残業、偽装請負、日雇い派遣、過労死、過労自殺、セクハラ、パワハラと問題は数多く、しかも、行政からの指導のみならず、司法判断が求められることが多くなっている。
 それだけ、労働問題の紛争が深刻化していること、かつては権利の上で眠っていた労働者が泣き寝入りはしなくなったこと、労働者の流動化により短期的に見た行動に走る傾向があり、労働者自身が長い目で自らを鍛えるという傾向は見受けられなくなっていることが理由であろう。
 他方で、日本航空にみるように、経営が安泰であるという企業は少なくなっており、どこの企業が倒産しても何の不思議もないという常態に陥っているといえる。そうなると、どうしても、企業も労働者も、余裕がなくなり、すぐに労働者に成果の達成を求めたり、他方で労働者側ものんびりと英気を養ってから実力を発揮しようという者は少なく、短期的に成果を求め、それを上げるよう努力するようになってきている。そうすると、労働者も短期の待遇についての関心が高くなり、自分を評価してくれない企業には権利を主張して争う傾向になる。その一つがサービス残業であり、本来管理職であった者は将来の期待の下に、細かい労働条件面については無関心であったのに、過敏に反応するようになっている。
 厳しい経営の中にいる企業にとって、労働者からの要求が負担になっている企業も多い。

 本書は、大手ではない企業の労務管理担当者や、労働者側の勉強に役に立つようにしたいと考えている。些細な知識をむやみやたらに詰め込むような勉強は本来の勉強ではない。何事も理解さえあれば、後は実務の経験があれば十分に対応できる。本書はそのような考え方に基づいて書いたものであり、知識の豊かな読者には、物足りない面もあるであろう。
 しかし、労働法は生き物であり、実務に役立つものでなければ存在意義が大幅に減殺されてしまうのである。筆者としては、本書が労務の実務に役立つようになるように期待するところである。

書誌情報

発行年月日2010/04
著者外井浩志
出版社労働調査会