労災裁判例に学ぶ企業の安全衛生責任

 今回、労働新聞社の御厚意で本書を執筆することができました。本書は、これまで安全スタッフに連載してきた「裁判でみる最近の安全衛生事情」のうちの50稿を選別して紹介することとし、さらに、それを読むに当たっての基本的な知識の解説と労災をめぐる民事、刑事訴訟の流れについても簡単に解説しました。実は、安全スタッフでの労災裁判例の紹介シリーズは2回目になります。1回目は昭和62年4月から平成4年3月までで160回、2回目が平成18年1月から平成24年2月時点で147回になります。現在までで、都合307回の紹介をしたことになりますが、まだまだ紹介すべき裁判例は残っており、可能な限り紹介していきたいと考えています。

 さて、本連載、本書で取り扱っている労災の裁判例は、行政訴訟を取り扱っておらず、企業に対する損害賠償請求事件のみを取り扱っております。ところで、その労災の裁判例は一時期、新しいものが少なくなった時期もありましたが、平成10年代に入ってから過労死、過労自殺の裁判例が増加してきて、労災裁判というと過労死、過労自殺が主流を占める傾向にあります。裁判例を紹介する立場からすると、これも困った事態となっています。
 本書における事例の紹介でも、どうしても過労死、過労自殺の分野が多くの割合を占めることになりますが、現実にその分野に紛争が多いのであれば、それもまたやむを得ないのであろうと納得しております。ところで、労災裁判を紹介するときに一番苦労するのは、労災事故の状況の説明です。交通事故とは異なって労災事故はその状況が個別事案ごとに異なっており、しかも、文系の私が機械や器具のメカニズムに詳しいはずもなく、必ずしも事故の状況が思い浮かばないということもあります。そういうときには、常々、労災事件の判決に図面をつけるように工夫してもらえるとありがたいと考えてしまいます。その意味で、各事例の「事件の概要」の説明が必ずしもすっきりしない面があることは否めず、特赦の皆様方にも御容赦を戴きたいところです。

書誌情報

発行年月日2012/3/21
著者外井浩志
出版社労働新聞社