職場の労災・精神疾患補償・賠償の実務
この度、中央経済社の好意で、本書を書かせていただくことができました。中央経済社から労働者の安全・衛生・補償・賠償の本は3冊目になります。
1冊目は、『働く者の健康・安全・衛生・補償』、2冊目は『知っておきたい職場のルール 健康・安全・衛生と補償・賠償』です。いずれも第2版まで発行することができましたが、安全・衛生面と補償・賠償面の両方を網羅したQ&A方式の著作であり、出版した当時としてはそのようなスタイルの著作はなく、それなりの評価を得ることはできたと自負しております。ところが、その後は同じスタイルの著作が増えたせいもあってか、目新しいものではなくなり、斬新さに欠けることになったと反省しているところです。そのような理由もあって、本著は、Q&A方式をやめ、また、安全・衛生・健康・補償・賠償面の網羅的な内容にすることも放棄して、思い切って民事・刑事の訴訟になる場合に備えた実務書のつもりで、できる限り具体的な例を紹介しながら書いてみました。そして、被害者側、加害者側の双方にとって役に立つ本になることを目指しました。というのは、被害者にせよ、加害者側にせよ、健康・安全・衛生・補償・賠償関係に携わる者は、まず、事故・事件から出発することがこの分野の知識・技術をマスターすることの近道ではないかと思われるからです。
体系書はどうしても理論的であり、一から記載しなければならないため厚くなりますし、どうしても分かりにくくなるという点は否定できません。そして、そのような体系書に挑んで、刀を大上段に振りかざして事故防止、事件回避の観点から真っ正面からこの問題に取り組もうとすると、大概は途中で息切れがして挫折してしまいます。その意味では、理論的、学問的に係わるというよりも、実務的・実践的に係わる方が、遙かに効率よくこの分野の知識・技術をマスターできることになるでしょう。
労働安全衛生の分野といえば、現時点では過労死問題やメンタルヘルス問題が中心となっていますが、最近ではアスベスト問題も大問題になりつつあり、今後は、原子力発電所関連の放射能被爆や喫煙問題などが重要視されるようになってくると予想されます。その時代、その時代によって、重点課題には流行があるようです。
私自身、本書で扱う問題は、弁護士としてこれまで最も熱意を持って取り組んできた分野ですが、今後とも、時代が変わればそれに即応して対応できるように研鑽を積み、この分野の実務に携わる皆様方にできるだけ理解しやすい書物を書いていきたいと考えております。
書誌情報
発行年月日 | 2012/7/25 |
著者 | 外井浩志 |
出版社 | 中央経済社 |